2023.03.23 老人保健施設松和苑「令和4年度 WEB 健康教室」介護医療院 富田病院
老人保健施設松和苑 理学療法士の倉地です。
今回は「これだけは知っておきたいヒートショック」について
お話しさせていただきます。
□ヒートショックとは
急激な温度変化により身体が受ける影響のことで、暖かい居間からまだ冷たい浴室、脱衣室、トイレなど、温度差の大きいところへ移動すると、身体が温度変化にさらされて血圧が急変し、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こします。
特に冬場の入浴では、暖かい居間から寒い風呂場へ移動するため、熱を奪われまいとして血管が縮み、血圧が上がります。お湯につかると血管が広がって急に血圧が下がり、血圧が大きく変動することになりますので、要注意です。
日本では、年間約19,000人が入浴中に亡くなっていると推計されていますが、原因の多くはヒートショックである可能性があります。
□ヒートショックの危険性が高い人
ご高齢の方
→日頃元気な方でも血圧変化をきたしやすく、体温を維持する機能も低下して
いるため、特に注意が必要です。
高血圧の方
→血圧の急激な上下変動による低血圧が起きやすく意識を失う可能性が
高くなります。
糖尿病や脂質異常症、肥満体質の方
→動脈硬化が進行し、健常の方に比べて血圧を適正に保つことが難しい場合が
あるため、注意が必要です。
□ヒートショックを防ぐには
ヒートショックによる事故が、北国に多いわけではないという事からも、その原因は寒さだけではなく、急激な体感温度の差にある事がわかります。
もっとも注意が必要なのは入浴時ですが、急激な温度差を感じるのは、それだけではありません。日常に危険がひそんでいる事をまずは理解しましょう。
それでは、ヒートショックが起こりやすいケースに応じた予防方法をご紹介します。
- 起床時
《要因》
暖房の効いていない部屋の場合、起きてすぐにそのまま布団から出ると、急激な
冷気にさらされるため、血圧が一気に上昇してしまいます。
《予防方法》
布団の中で伸びや、手足の指の曲げ伸ばしなどのストレッチを行い、体を温めて
から布団を出るようにしましょう。また、布団やベッドから手が届くところに、
すぐに羽織れるものを用意しておきましょう。
- 暖かい屋内から屋外に出かける際
《要因》
少しの時間だからと薄着のまま外へ出るのは禁物です。
温度差が10度以上の急激な寒暖差を感じる事がヒートショックを引き起こします。
《予防方法》
暖かい室内から冬の屋外へ出る場合は厚着をするなど、必ずしっかりと防寒対策をするようにしましょう。また、首回りは太い血管が通っているにもかかわらず露出しがちな部位です。マフラーやタートルネックの洋服を着用する事で大きな予防効果が得られます。
- トイレ
《要因》
一般的な家庭では、トイレに暖房器具を設置していない場合がほとんどだと思います。しかし、トイレ室内はリビングやダイニングといった他の部屋と比べて極端な温度差が生じやすいうえ、衣服の上げ下ろしをして冷気を直に肌に感じる場所でもあります。特に冬の早朝や夜中のトイレの冷え込みには要注意が必要です。
《予防方法》
可能であれば、狭い室内にも置ける小型の暖房器具を用意しましょう。
難しい場合は、暖房式便座やパイル地の便座カバーを導入する事をオススメします。
また、スリッパもひんやりする素材を避け、パイル地などもおすすめです。
□ヒートショックの危険性が高い「浴室」「脱衣所」の予防方法
《予防方法》
・冷え込みやすい脱衣所や浴室、トイレを暖房器具で温める事は、効果的な
ヒートショック対策の一つです。
・浴室に暖房設備がない場合は、「湯を浴槽に入れるときにシャワーから給湯する」
「浴槽の湯が沸いたところで、十分にかき混ぜて蒸気を立て、蓋を外しておく」など、
できるだけ浴室内を暖め、温度差が小さくなるように工夫しましょう。
・温度計やタイマーなどを活用して、湯温、部屋の温度、入浴時間など普段意識
しにくい部分について見える化をしましょう。
□もしも自身や家族がヒートショックになってしまったら・・・
《軽度の場合》
ヒートショックの症状が軽度の場合、「めまい」や「立ちくらみ」程度で済みます。
ご自身やご家族が「めまい」や「立ちくらみ」を起こした時は、次のように対処しましょう。
・転倒に気をつけながら、その場にゆっくりと座る。可能ならば横になる。
・無理に立ち上がって動こうとすると、再び血圧の変動が起きる可能性がある。
・転倒する危険もあるので、しばらく安静にしておく。
・しばらく経ってもめまいが落ち着かないようであれば、119番に通報する。
・救急隊員の指示に従って、救急車が到着するまで待機する。軽度のヒートショックは、
多くの場合はしばらく安静にしていたら落ち着きます。
めまいが落ち着かない時は、迷わず119番に通報しましょう。
【ポイント】
「この程度で救急車を呼んで良いのかな…」と不安になる方も、中にはいらっしゃるかもしれません。そんな場合は、「#7119」に電話してみる事をお勧めします。
「#7119」
医師や看護師など、研修を受けた専門家が対応してくれる電話相談窓口です
緊急性が高いと判断された場合、迅速に消防隊の出動に繋いでくれます。
緊急性が高くない場合、受診のタイミングなどについてアドバイスしてもらいましょう。
《重度の場合》
ヒートショックは重度のものになると、下記の症状がみられます。
- 失神
- 激しい頭痛
- 吐き気・嘔吐
- 激しい胸の痛み
- ろれつが回らない
- 四肢の脱力感・麻痺
特に失神が起きたときは、本人と意思の疎通をすることができませんので、家族や近くに居る人が対処しなければなりません。その際のおおまかな対処法は、以下のようになります。
- 発症者が浴室などでぐったりしているのを発見したら、すぐに大きな声で助けを呼ぶ。
- 発症者本人が浴槽の中に居る場合、直ちに浴槽の栓を抜き、119番に通報する。
- 救急隊員から「◯分後に救急車が到着します。それまでに〜〜をしておいてください」などと指示を受ける場合もあるので、可能な限り従う。
なお、重度のヒートショック症状がみられる場合は、次の事にも注意して対応してください。
- 発症者本人が浴槽の中に居る場合、可能ならば浴槽の外に出して寝かせる。
- 意識がないからといって、むやみに揺さぶったりするのは禁物。
できるだけ頭を動かさないようにする。 - 発症者を寝かせたら、頭を水平にしておく。
枕を入れるなどして頭を上げると、血の巡りが悪くなり、更に症状が悪化する危険性がある。 - 嘔吐している場合は、嘔吐物が気管に詰まって窒息する危険性がある。
窒息を防ぐために、身体を寝かせたあと、顔を横に向けておく。
ヒートショックに限らず、緊急性の高い事例は予期せずに発生します。
普段から緊急時の対応を頭に入れておくことで、ご自身や大切な命を守ることに繋がります。定期的に緊急時の対応を復習しておくことが大切です。
《最後に》
この記事を読んだことをきっかけに、自分自身だけでなく、ご家族様や普段接することのあるご友人など、普段の生活で上記に挙げた症状が見られた時に、
ふと「ヒートショックの対応策」を思い出していただけたら幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。